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暗記メーカー、高校生の自作単語帳アプリが8年で100万DL。直近1年だけで30万DLを足した

高校生が自分のテスト勉強用に作った暗記アプリ「暗記メーカー」は、2016年6月の公開から約8年で累計100万DLに到達した。うち30万DLは会社を辞めた直後の1年で積んだ分。収益額は非公開だが、売上の柱は広告からサブスクへ移っている。

執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)

暗記メーカー、高校生の自作単語帳アプリが8年で100万DL。直近1年だけで30万DLを足した

金額が一切出てこない個人開発の記録が、それでも読む価値を持つことがある。学習アプリ「暗記メーカー」は、2016年6月の公開から約8年で累計100万ダウンロードに到達した。開発者のymdkit氏が2024年2月に公開した記事によれば、そのうち30万DL(全体の3割)は、会社を辞めて独立した直後の1年で積んだ分である。当時の本人は24歳。人生のおよそ3分の1を、この1本のアプリと過ごしてきた計算になる。

アプリの中身は驚くほど素朴だ。自分で問題集を作り、解き、他の利用者と共有する。「作問」「解答」「共有」の3つに絞ったシンプルな設計で、資格勉強や学校のテスト対策に使われている。運営元である株式会社QuizMarketのサービスページでは、iOS・Android・Webに対応し、累計100万DL以上と記載されている。gBizINFOに登録された同社の従業員数は1人だ。

原型は高校時代にある。Androidアプリ開発の書籍を手に取り、メモ帳や天気予報やパズルゲームを作っていた延長で、テスト勉強用の単語帳アプリを自分のために作った。Google Playの登録料25ドルを親を説得して払い、公開にこぎつけている。最初の収益が出るまで半年以上かかり、AdMobの広告収入で得た額は8,000円だった。

8年の内訳

時期状態
高校時代テスト勉強用に単語帳アプリを自作。登録料25ドルを払ってGoogle Playで公開
公開から半年以上後初めての収益。AdMob広告で8,000円
2016年6月「暗記メーカー」としてのリリース時期(運営元サイトの表記)
大学時代情報系を専攻しつつインターン・サークルで開発。アプリは知識のアウトプット先に
2021年12月累計40万DL。収入源は広告が主、広告削除の課金アイテムが補助
大学卒業後インターン先の企業に入社。Flutterの新規アプリを設計から担当
入社1年後独立を決断
独立後の1年30万DLを追加
2024年2月累計100万DL。サブスクが売上の50%を占めるまでに

金額の実数は最後まで出てこない。ただ、独立の理由として本人が挙げた3点のうちの1つが「暗記メーカーが最低限の生活費をまかなえていたこと」であり、2021年時点の表現では「アルバイトの代わりくらい」「ほぼ不労所得」だった。この2つの言い方の差が、5年半で40万DLだったものが2年強で60万DL積み増した時期の、収益側の変化をなんとなく示している。

広告費ゼロで検索順位を取る、という初期設計

40万DLまでの局面で効いていたのは、ASOだった。「テスト勉強」「問題集」「暗記」という検索語で上位を維持することを狙い、アプリのタイトルを分かりやすいものにする。本人はこれを、広告宣伝費をかけずに検索流入でダウンロードが見込める状態、と説明している。学習アプリはテスト週間に合わせてダウンロードが跳ねる季節商品でもあり、その山を検索経由で拾える位置に置いておけば、施策を打たない月も数字が積まれる。

コスト側の設計も、この「放っておいても減らない」構造に合わせてある。基本機能はクライアント側で完結させ、サーバを使うのは共有したい問題集をアップロードするときだけ。従量課金と相性のいい部分にだけサーバを寄せることで、ダウンロードが増えても固定費が比例して増えない形にしている。iOS版のリリース時期も、Android版の広告収入がApp Storeの年会費を賄えると判断できるタイミングまで待った。学生が趣味で回すには、この順番でないと続かない。

収益モデルの選択にも根拠がある。滞在時間が30分〜1時間と比較的長いアプリなので、バナー広告と相性がいい。だからメインは広告収入、補助として広告削除の買い切り課金、という構成だった。数字を持たない個人開発が「なんとなく広告」を選ぶのとは違い、利用の形から逆算されている。累計200万DLに届きながらヒット作を1本も持たなかった68本のアプリを出し続けた個人開発者の記録と比べると、こちらは本数ではなく1本の滞在時間を収益に変換した型だ。

独立が変えたのは、意思決定の間隔だった

独立後の1年で30万DL、という数字を「時間が増えたから」で片づけると、たぶん本質を外す。本人が挙げている変化は、意思決定のスピードと、施策の粒度だ。その日思いついた施策をその日のうちにリリースすることもある、と書かれており、審査に出す頻度は2日に1回のペースまで上がった。

同時期に踏んだ施策は、就職先で学んだことの持ち帰りでもある。デザインガイドラインを導入し、「ユーザに驚きを与えないデザイン」を基準に据える。複数のレイアウトでA/Bテストを回し、そこで自分の主観が当てにならないことを確認する。Swift/Kotlinの両ネイティブからFlutterへリプレイスする。ChatGPTによる機械翻訳で70か国語に対応させる。GitHub Copilotで手を動かす速度を上げる。

そしてマネタイズではサブスクを導入し、これが売上の50%を占めるまでになった。広告中心の構成からサブスク併用へ移ったことは、ダウンロード数だけを追う段階から、継続利用を収益に変える段階へ移行したことを意味する。学習アプリは受験や資格試験の期間で利用が終わりやすく、広告収入は利用の山谷をそのまま反映する。サブスクはその谷を埋める装置だ。100万DL到達と同じくらい、この構成比の変化がこの事例の転換点だと思う。

うまくいかなかったこと

多言語化は一度失敗している。Google翻訳で中途半端に多言語対応した結果、現地の利用者の目に止まった挙句、アプリ内の文言の意味が分からないという理由でロシア語の星1レビューを連発された。この時点でローカライズは英語のみに戻している。後年ChatGPTで70か国語対応をやり直しているが、そのときの本人の姿勢も「ないよりはマシ」という抑えたものだ。

技術選定にも後悔が残っている。AndroidをKotlin、iOSをSwiftで両ネイティブ開発したことについて、開発が長期化するにつれ修正の手間が2倍になるのは個人開発としてはなかなか厳しい、と書き、クロスプラットフォームにしておけばよかったかもしれないと振り返っている。実際、独立後にFlutterへ寄せている。8年という時間軸では、初期の技術選定が後半の開発速度をそのまま規定する。

機能要望を断ってきた履歴も記録されている。「問題に画像を添付したい」「間違えた問題のみ出題してほしい」は、作問と解答という中心の範囲内で多くの利用者に効くとして採用した。一方で「日々の学習記録をつけたい」は既存ツールの併用で足りる、「英語の発音を確認したい」は恩恵が限定的、として採らなかった。個人開発で8年続けるうえで効いたのは、機能を足したことより、この断り方のほうだろう。

再現の条件と限界

この事例から取り出せるのは、金額が出せない事業でも進捗を測れる指標を持っておく、という運用だ。累計DL、サブスクの売上構成比、リリース頻度。このアプリの記録はどれも本人が数えられる数字で、外部の評価に依存していない。ユーザー数を軸に成長を語った割り勘アプリWalicaの記録と同じく、金額を伏せたまま実態を検証可能にする書き方の例になっている。

一方で再現しにくいのは、時間の使い方そのものだ。高校から大学、就職、独立まで同じアプリを持ち続けたからこそ、収益が生活費に届いた時点で独立という選択肢が現実になった。逆算すると、独立を先に決めてから8年分の蓄積を作ることはできない。本人が独立の理由に「年齢が上がるほどリスクが増加する」を挙げているのも、この順番が偶然ではなく年齢と噛み合っていたことを示している。個人開発を14年続けたSiRO氏の収益カーブと並べると、長期の個人開発が金額に変わるまでの助走の長さが見えてくる。

もう一点、市場側の限界も見ておきたい。学習アプリの利用者は入れ替わりが速く、卒業や合格でいなくなる。100万DLという累計値は、いま使っている人の数ではない。サブスクを収益の半分にした判断は、この構造の中で継続率を収益に翻訳する試みであり、そこが次の数年の勝負どころになるはずだ。運営元が法人として立ち上がり、従業員1人のまま塾や学校向けの機能まで掲げているのは、個人利用の外に継続的な収入源を探している動きとも読める。

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